相続税 2020.10.23
日本で相続税廃止の可能性はあるのか、諸外国の相続税事情と併せて解説
一定以上の財産を相続すると相続税が課税されますが、せっかく家族が稼いだ財産に対して、単に相続するというだけで重い税負担を強いられるのに納得がいかないという方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、日本以外の諸外国では相続税をどう扱っているのか知るとともに、今後相続税を廃止することはできるのかどうかについて考えてみたいと思います。
諸外国の相続税の動向と廃止
先進諸国G7では相続にあたって課税制度はあるのでしょうか。
調べたところアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアについては日本の相続税と同じような制度が存在していました。
また、カナダについても相続による財産移転の一部について、キャピタルゲインに課税する制度があり、実質的には相続税と同じ機能をもった制度があるといえます。
アメリカでは相続税性が2010年に時限付き一旦廃止されましたが現在は再導入されているようです。
その他の諸外国の相続税制度と廃止の動き
このように先進諸国については相続税制度があるのに対し、それ以外の国に目を向けてみると動向が変わってきます。相続税制度がある国は44か国なのに対し、相続税制度がない国は83か国にも上ることから、地球規模で考えた場合相続税制度がある国はむしろ少数派といえるかもしれません。
中でも、オーストラリア、ニュージーランド、香港、スウェーデン、ポルトガル、シンガポール、オーストリア、ノルウェーについては相続税制度を廃止させました。
相続税廃止を望む日本人からすると、これらの国が相続税制度を廃止した理由が気になるところです。
相続税廃止を決めた国の事情
相続税は富の再分配という意味では非常に重要な意味合いがあると考えられますが、廃止を決定した諸外国ではほかに次のようなことを懸念していたようです。
・国内富裕層の国外転出
相続税を嫌うのは富裕層ですから、相続税制度があることで富裕層が国外に転出してしまうというリスクがあったからです。
・富裕層の国内誘致の促進
相続税制度を廃止することで、相続税制度がある国外の富裕層を誘致して経済活動や国競争力をアップさせようと考えたからです。
先進国に比べ他の諸国については、相続税制度があることで経済的な発展の足かせになるという事情があるようです。
日本で相続税廃止はあるのか
これらの諸外国の事情を考えたうえで、日本において相続税が廃止されることはあるのでしょうか。私の見解としては、相続税の廃止は非常に厳しいと思います。
富の再分配は必要
相続税の果たすべき役割は富の再分配といわれています。
日本においては、表立って貧富の差が開いているようには見えませんが、本質的には所得格差が広がりつつあるのが現状です。
相続税の課税がないとすると、金持ちの子供は金持ち、という構図が確定してしまい経済格差がますます広がる可能性が考えられます。
相続税は社会保障財源
高齢化が急速に進む中、社会保障費の財源が過大となっています。そんな中、貴重な税収である相続税を廃止することは非常に厳しいと考えられ、これに変わる税金の創設も現状難しいと考えられます。
特に昨今はコロナ禍により、多くの個人、法人の利益が減少していることから、通常の税収も大幅に減少すると見込まれる中、手堅く税金を徴収できる相続税を廃止することは事実上難しいでしょう。
高齢化傾向で相続税廃止は遠のく
相続税制度を廃止するメリットとしては、相続財産をスムーズに相続人に取得させることで相続人自身の資産を形成させられることがあげられます。
ただ、高齢化が進む現代において既に人生100年時代といわれる中、相続発生時には相続人も70~80代になり、相続財産によって資産形成する必要がないと考えられるのです。
要するに、相続税を廃止してまで相続財産を取得させなくても、相続人の生活基盤はすでに安定しているということです。
まとめ
以上のことから考えると、相続税制度は先進諸国には必要で、現在急速に発展を遂げている国においては、廃止することで経済力を高められると考えられます。
そうなると今のコロナ禍、高齢化、少子化の日本において、相続税制度の廃止という動きは非常に難しいと考えられるでしょう。但し、今後の状況次第では、最高税率や最低税率の改正や基礎控除額などについて部分的に改正される可能性はあるかもしれません。
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