相続税 2021.08.25
高額な不動産しか遺産がない。相続税が払えない時にはどうしたらいいのか?
高額な不動産しか財産がなく、預貯金がほとんどない人にとって、最も心配なことは、相続税ではないでしょうか。相続税は基本的に、被相続人が亡くなって10ヶ月以内に現金一括で納めなければならないからです。ここでは、不動産はあるが預貯金が少ない方が、今からできる相続税対策をご説明いたします。
相続の流れ
相続財産・法定相続人の確定
被相続人が亡くなった後は、相続の手続きを行うことになりますが、まず最優先で行うことは、相続財産の確定と法定相続人の確定です。
相続財産については、「財産目録」を作成し、被相続人の財産を全てリストアップします。その際に、不動産(家・土地等)と動産(現金、預貯金、有価証券、自動車、骨とう品等)に分けると、まとめやすいと思います。
それと並行して、誰が法定相続人なのかを確定させる必要があります。その際に、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を取り寄せなければなりません。それにより、被相続人に係る親族がわかり、誰が法定相続人になるのかが確定することになります。
遺産分割協議
相続財産と法定相続人が確定した後は、遺産をどのように分割するか、相続人全員で話し合う必要があります。
ただ、被相続人が遺言書を残していて、全相続人がその遺言書の内容に納得すれば、話し合いをする必要はありません。しかし、遺言書がなかった場合、あるいは遺言書があっても、遺言書とは異なる分割方法を行うとする場合には、全相続人で話し合うことになります。これを「遺産分割協議」と言います。
そして、遺産分割協議の結果、全相続人が納得できる方法で合意した場合には、「遺産分割協議書」を作成します。この協議書には、全相続人の署名・捺印が必要です。なお、協議の結果、相続しない相続人がいても、その人の署名・捺印は必要です。
相続税の申告・納付
遺産は全て相続税がかかるわけではありません。基本的に、基礎控除といわれる金額以上に遺産を相続した場合に、相続税が課税されます。
基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。
相続税の申告書と提出期限と納税期限は、いずれも相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。基本的には、被相続人が亡くなって10ヶ月以内と理解しておきましょう。
相続税は、原則として納税期限までに現金で一括納付しなければなりません。
申告書は、相続人の住所地ではなく、被相続人の住所地の税務署に提出します。原則として、相続人全員で1通の申告書を共同で提出します。同時に、控え用の申告書を相続人の人数分作成し、税務署の受領印を押印してもらって、相続人が保管をします。
相続税の納付方法
相続税の納付は原則として現金一括
先程もご説明したように、相続税は原則として期限内に、現金一括で納めなければなりません。しかし、不動産や株式など直ぐに現金化できない遺産が多く、預貯金が少ない場合には、期限内に現金一括で納付できない事態が想定されます。
そういう場合には、延納や物納という選択肢があります。
延納
延納とは、5年~20年で相続税を分割して納付する方法です。但し、延納する場合には、ローンの利息に該当する「利子税」も合わせて支払う必要があります。
延納が認められるには、次の4つの条件を全て満たす必要があります。
- 相続税が10万円を超えていること
- 現金一括で納めることが困難であること
- 延納税額・利子税の額に相当な担保を提供すること
※延納額が50万円未満・延納期間3年以下の場合、担保は不要 - 申告期限までに延納申請書・担保提供関係書類を税務署の提出すること
また、上記3.で記載している担保については、次の6つに限定されます。
- 国債・地方債
2. 社債その他の有価証券(税務署長が認めるもの)
3. 土地
4. 建物、立木、登記された船舶などで保険に附したもの
5. 鉄道財団、工場財団などの財団
6. 税務署長が認める保証人の保証
なお、上記の担保については、相続・遺贈で取得した財産だけでなく、相続人が元々所有していた財産、共同相続人や第三者が所有している財産でも認められます。
利子税は最高で年6%、延納の期間は原則5年です。但し、相続税額に占める不動産等の割合が大きい場合には、その割合に応じて延納期間が10年、15年、20年になります。
物納
物納とは、相続税を現金で納める代わりに、有価証券や土地などで納税する方法です。延納を選択しても、現金で納税できない場合に、納付困難な金額に限って認められます。但し、物納できる財産は、相続・遺贈によって取得したものに限られます。
物納できる財産は、次の4つです。
- 国債・地方債
- 不動産、船舶
- 社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
- 動産
但し、物納が認められるためには、次の4つの条件を全て満たす必要があります。
- 延納でも金銭で納付できないこと
- 申請財産は、相続財産のうち、以下の財産・順位で、日本国内にあること
①国債・地方債
②不動産、船舶
③社債、株式、証券投資信託、貸付信託の受益証券
④動産 - 物納する財産が、管理処分不適格財産に該当しないこと
- 申告期限内に物納申請書・物納手続関係書類を税務署の提出すること
物納された財産は国が処分し、現金として国庫に入ります。なお、物納後に売却ができなかったり、維持費がかかったり、管理が複雑だったりするものは、許可されないことになります。
生命保険の活用
延納や物納は条件が厳しく手続きが煩雑なため、生命保険を活用する方法がお勧めです。
これは、被相続人の存命中に、被相続人の死亡時に保険金を受け取れるような生命保険の契約をする方法です。被相続人が死亡すれば、保険金が支給されますから、それを相続税に充てるわけです。
但し、この保険金を相続人が受け取った場合、みなし相続財産として、相続税がかかります。しかし、生命保険金には、次の計算式で算出される金額が非課税となります。
生命保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が3人の場合、「500万円×3人=1,500万円」となり、1,500万円までは非課税となります。この「非課税枠」を念頭に置いて、相続税を納付するために、
生命保険を上手に利用することができます。
まとめ
相続税が現金一括で納付できない場合、延納や物納という選択肢があります。しかし、条件が厳しく、手続きが煩雑です。そこで、財産の大部分が高額な不動産を持つ人は、生命保険に加入する方法を考えてみたらいかがでしょうか。非課税枠を上手に利用すれば、相続税はかからず、死亡保険金を相続税に充てることができます。
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